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母なる果実
第3章 番外 果実の反芻
 洗濯機のスイッチを入れて、水が注がれ回り始める様を、女はじっと見つめてた。規則正しい音で回るその機械を眺めながら、ふと思う。

――会いたいな。

 その瞬間、自分の心臓がきゅっと縮こまったような気がした。その感触を確かめるように、胸の前の豊かな膨らみの上にそっと手を添える。そして、この胸の中で、幸せそうに抱かれている彼の温もりを思い出した。

――会いたい、会いたい…。

 何度も、何度も呟く。その度にきゅっと縮こまっていく感覚を、無闇に噛み締めてしまい、彼女の表情は徐々に雲行きが怪しくなって今にも雨が降りそうな程にくしゃくしゃに曇ってしまった。

 温もりだけでなく、そっと撫でてあげる髪の感触、そして優しく抱きしめてくれた時にふわっと香るあの匂い――それらを反芻すればするほど、心の陰りは深まっていった

 どうして来てくれないの?嫌われちゃったの?もう、会えないのかな…。考えれば考える程、後ろ向きなことばかり思いついてしまう。
 終いには、こんなに辛くなるなら出会わなければよかった――そんなことまで考え始めてしまった。
 しかし、それと同時に、そんなわけない、忙しいだけだから、大丈夫だから…という感情のせめぎ合いも起こっている。彼女の心はそんな葛藤でぐちゃぐちゃになってしまっていた。
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