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雨にほどける
第11章 やさしい雨が降る頃に

岡山駅のホームには、朝のざわめきが漂っていた。
アナウンスの声、スーツケースの車輪の音。
そのどれもが、私の心を少しずつ現実に引き戻していく。
改札の向こうに立つ涼は、
何も言わず、ただ微笑んでいた。
それだけで、なぜだか涙が出そうになる。
「またね、せんせ」
声が震えないように、
ぎゅっと唇をかみしめた。
涼は私の手をそっと握り、ゆっくりと頷いた。
「またね、澪ちゃん。……風邪、ひかないでね」
その言葉に、不意に頬が緩んだ。
別れ際の優しさが、やけに胸に沁みた。
新幹線に乗り、窓の外を見ると、
ふいに空から、
ひとすじの雨が落ちてきた。
――やっぱり、今日も雨だ。
けれど、昨日の雨とは違う。
冷たいだけじゃない。
どこかあたたかく、
ふたりを包んでいた夜の名残のような雨だった。
触れたこと、
声を聞いたこと、
互いの熱を確かめあったこと。
どれもが夢のようでいて、
確かにこの身体の奥で、まだ息づいている。
きっともう、
あの夜よりも遠い距離に私たちはいる。
けれど、だからこそ信じたいと思った。
“終わらない関係”という言葉を。
窓に映る、自分の顔にそっと微笑みかける。
――また、会いにいく。
今度は、私から。
雨音にほどけた想いは、
やさしい雨へとかたちを変えて、
静かに未来へと降り続けていた。
完
アナウンスの声、スーツケースの車輪の音。
そのどれもが、私の心を少しずつ現実に引き戻していく。
改札の向こうに立つ涼は、
何も言わず、ただ微笑んでいた。
それだけで、なぜだか涙が出そうになる。
「またね、せんせ」
声が震えないように、
ぎゅっと唇をかみしめた。
涼は私の手をそっと握り、ゆっくりと頷いた。
「またね、澪ちゃん。……風邪、ひかないでね」
その言葉に、不意に頬が緩んだ。
別れ際の優しさが、やけに胸に沁みた。
新幹線に乗り、窓の外を見ると、
ふいに空から、
ひとすじの雨が落ちてきた。
――やっぱり、今日も雨だ。
けれど、昨日の雨とは違う。
冷たいだけじゃない。
どこかあたたかく、
ふたりを包んでいた夜の名残のような雨だった。
触れたこと、
声を聞いたこと、
互いの熱を確かめあったこと。
どれもが夢のようでいて、
確かにこの身体の奥で、まだ息づいている。
きっともう、
あの夜よりも遠い距離に私たちはいる。
けれど、だからこそ信じたいと思った。
“終わらない関係”という言葉を。
窓に映る、自分の顔にそっと微笑みかける。
――また、会いにいく。
今度は、私から。
雨音にほどけた想いは、
やさしい雨へとかたちを変えて、
静かに未来へと降り続けていた。
完

