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映える恋(短編集)
第2章 ひとしづく、夜に落ちて
窓の外で雨が鳴っている。ぽつり、ぽつりと、まるで心の奥をノックするような音。静かな部屋にその響きだけが重なって、私の呼吸を、少しだけ浅くする。
紗世はソファの隣で、黙ったまま紅茶を飲んでいた。さっきまで笑っていた顔が嘘みたいに、今はおだやかで静か。
言葉は交わさなくても、肌の近くに彼女の気配がある。
「……まだ、帰らないで」
思わず漏れたその声は、自分でも驚くほど小さかった。でも、確かに本心だった。
紗世がゆっくりとこちらを向く。まつげが少し濡れていて、その奥の瞳が揺れている。何かを欲しがってはいけないとわかっていても、それでも……。
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