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映える恋(短編集)
第1章 鍵の音
優衣の指が、ゆっくりと私の背中にまわってくる。そこに込められたのは、声にならない願い。
「行かないで」
「ここにいて」
そんな気持ちが、肌越しに伝わってくる。
髪の間に指を差し入れ、耳元に唇を寄せると、優衣が小さく息をのんだ。その音さえ、ふたりだけの合図のようだった。
私は目を閉じて、その鼓動に耳を澄ます。
この夜が終わらなければいい。
カップの中のココアが冷めていくのも忘れて、私はそっと鍵をテーブルに置いた。
音がまた、静かに鳴る。
秘密の印みたいに、甘く、優しく。

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