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わたしの昼下がり
第1章 くわえ込む
 主婦。32歳です。夫と娘が二人。結婚して子供ができてからしばらくはアパート住まいでしたが、『ダメで元々』と応募してみたこの団地の抽選に当たって移ってきました。はやいものでもう7、8年くらいになります。

 『俺の黄金の右腕のおかげだね』

 抽選会でくじを引いた夫は自慢気に話していたものです。

 団地から最寄りの駅まではバスに乗って10分。入居した当時は団地の建物のほかは何もなく、買い物をするにもいちいちバスに乗って駅前に出ていましたが、1年くらいで団地の一角にスーパーマーケットもできました。車が通るたびに土ぼこりが舞っていた道路もきれいに舗装されました。バスの本数も増えて、車もない我が家の暮らしもいくらか便利になりました。

 下の娘も小学生になりました。家の中も既に手狭になってきたような気もしますが、三人目をつくるのならわたしははやく欲しいと思っているのですけど、夫にはあまりその気はないみたいです。もともと仕事人間なので、毎日夜遅く、終バスを目処にして帰ってきます。年々、会社までの通勤時間が長いことをぼやくようになりました。

 どこの家も、我が家と同じような夫婦と子供という家族構成です。毎朝、バスの時間に合わせて夫や子供が家を出ていきます。ゴミを回収場所に持って行けば、夫や子供を送り出した主婦たちの井戸端会議が始まります。同じ2LDKの間取りの部屋で同じような家族構成で暮らしていますから、共通の話題には事欠きません。『女三人寄れば姦しい』とはよく言ったものです。
 どこそこのスーパーマーケットの安売りが今朝の新聞のチラシに入っていたとか、西日がきつくて部屋のカーテンがすぐに色あせるとか。夫婦喧嘩したという話になれば、慰めてあげたり、一緒になって怒ったりとか。子供の学校の話になれば、〇〇先生は当たりだけど、△△先生は新人で頼りないとか…。雨の日でもない限り、別に待つ必要もないのに回収車がゴミを運んでいくまでお喋りは止みません。

 『でも、いくら『先生』って言ったって、若いんだから頼りないくらいがちょうどいいかも。なんだか母性本能をくすぐられちゃうのよね』
 『若い若いと思っていたけど、自分もいつの間にかそういう年代になっちゃったってことよ。なにせ10歳も年下なんだから』
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