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波の音が聞こえる場所で
第9章 安奈という女について
僕はいっちゃんに感謝する。だって適当に思いついた僕のくだらないゲーム(のようなもの)にここまで真剣に付き合ってくれているのだ。僕はいっちゃんの「ドキドキしてきた」という言葉を聞いてめちゃくちゃ申し訳なく、そして情けなくなった。
「最初はいっちゃでいいよ」
「僕から始めていいんですか!」
いっちゃんがのってくるとなぜか僕の心が痛む。
「いいよ。いいやつにあたるといいね」
ガラクタ(アーチストの……もういいでしょうか?)の中にダイヤモンドなんてない……多分。
「いきます!」
頼むからいっちゃん適当に流してくれ。
「プリーズ」
目を瞑って箱の中にゆっくりゆっくり手を伸ばしていく大道一直。僕の思い付きに付き合ってくれて、いっちゃんサンキュー。
カシャカシャという音を立てながらいっちゃんは、家に持ち帰らなければならないカセットを選んでいる。大道一直、ここで一つのカセットを掴んだ……らしい。それを持ち上げて。
いっちゃんが目を開けて掴んだカセットに目をやる。もちろん僕もそのカセットを見た。
「森進一ヒット曲全集」
いっちゃんがカセットのタイトルを読んだ。
「森進一って誰?」
僕の素朴な疑問。
「ちょっと待ってください」
僕の疑問をいっちゃんがスマホを使って解決しようとする。その間僕は森進一をいっちゃんから預かる。青いダブルのスーツに赤いネクタイ。何だか赤いネクタイがめちゃくちゃ太い。そして八十になっても毛量に不安を感じることなんてないだろうと思われるたっぷりきっちりの髪……というか髪型。どこの理髪店に行かれているんですか? と僕は森さんに訊ねたかった。
「先輩、森進一さんてまじですごい人です!」
「何で?」
「第16回日本レコード大賞を受賞してます」
「何それ?」
僕は音楽に疎い。
「知らないんですか?」
「知らない」
知らないことを恥だとは思っていない。
「先輩、そのカセットの中に『襟裳岬』入ってますか?」
いっちゃんにそう言われて、僕はカセットのパッケージを確認した。
「『おふくろさん』の次が『襟裳岬』」
「その楽曲でレコード大賞を受賞したみたいです」
「聴いてみる?」
と言ったが、ラジカセが壊れているのでカセットを使うことができない。壊れたラジカセが十万円。あり得ん。
だが、今の時代。どこにいても『襟裳岬』を聴くことができる。
「最初はいっちゃでいいよ」
「僕から始めていいんですか!」
いっちゃんがのってくるとなぜか僕の心が痛む。
「いいよ。いいやつにあたるといいね」
ガラクタ(アーチストの……もういいでしょうか?)の中にダイヤモンドなんてない……多分。
「いきます!」
頼むからいっちゃん適当に流してくれ。
「プリーズ」
目を瞑って箱の中にゆっくりゆっくり手を伸ばしていく大道一直。僕の思い付きに付き合ってくれて、いっちゃんサンキュー。
カシャカシャという音を立てながらいっちゃんは、家に持ち帰らなければならないカセットを選んでいる。大道一直、ここで一つのカセットを掴んだ……らしい。それを持ち上げて。
いっちゃんが目を開けて掴んだカセットに目をやる。もちろん僕もそのカセットを見た。
「森進一ヒット曲全集」
いっちゃんがカセットのタイトルを読んだ。
「森進一って誰?」
僕の素朴な疑問。
「ちょっと待ってください」
僕の疑問をいっちゃんがスマホを使って解決しようとする。その間僕は森進一をいっちゃんから預かる。青いダブルのスーツに赤いネクタイ。何だか赤いネクタイがめちゃくちゃ太い。そして八十になっても毛量に不安を感じることなんてないだろうと思われるたっぷりきっちりの髪……というか髪型。どこの理髪店に行かれているんですか? と僕は森さんに訊ねたかった。
「先輩、森進一さんてまじですごい人です!」
「何で?」
「第16回日本レコード大賞を受賞してます」
「何それ?」
僕は音楽に疎い。
「知らないんですか?」
「知らない」
知らないことを恥だとは思っていない。
「先輩、そのカセットの中に『襟裳岬』入ってますか?」
いっちゃんにそう言われて、僕はカセットのパッケージを確認した。
「『おふくろさん』の次が『襟裳岬』」
「その楽曲でレコード大賞を受賞したみたいです」
「聴いてみる?」
と言ったが、ラジカセが壊れているのでカセットを使うことができない。壊れたラジカセが十万円。あり得ん。
だが、今の時代。どこにいても『襟裳岬』を聴くことができる。

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