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天狐あやかし秘譚
第128章 悲歌慷慨(ひかこうがい)
☆☆☆
「綾音よ」
ダリに促され、私はやっと水無の墓前から立ち上がることができた。やっぱり胸が詰まるような苦しさは消えなかった。
あの戦いのとき、私は確かにキヌギヌの言葉にとてつもない嫌悪感を抱いていた。しかし、同時に、妙な違和感も覚えていたのだ。その時はわからなかったその感覚が何であるかがはっきりしたのは、戦いを終えて数日が経ったころだった。
「ねえ、ダリ・・・彼女の言ったことは嘘じゃなかったよね」
彼女があの戦いの最中で私たちに語った慙愧の念――
『かつて、私は過ちを犯しました』
『母の死を、父の狂気を見てしまった』
一度目は好奇心から禁断の神宝の力を使い、
そして、今回は嫉妬心から妹がダリに殺される未来を見てしまった。
彼女は後悔したに違いない。自分を責めて、責めて、責め続けただろう。
そして、後悔しても誰にも頼れずに、もちろん妹にそれを言うこともできなかった。
だからこそ、その破滅の予言が成就する前に、適合者でもないのに八握剣を用いてダリに挑んだし、私たちが沖津鏡の呪縛を破ったと知るや、私達に対して涙ながらに妹の命乞いをしたのだ。
彼女は生命を削ったのだ。それでも妹の死だけは防ぎたいと思ったのだ。
「ああ、あの者は泣いていたな」
ダリもポツリと答えた。
――妹を死なせたくない
という彼女の言葉に、絶対に嘘などなかった。
にも関わらず、当の妹であるキヌギヌの認識はまるで違った。
全く、話が噛み合ってなかったのだ。
同じ水無という人間を見ているはずなのに、私の目に映っている彼女と、キヌギヌの目に映っているそれが全く符合しない。
その違和感に、私は不気味さを超えて恐怖心すら覚えたのだった。
「キヌギヌは笑っていたよ・・・。あんなの、水無が可哀想だよ」
もちろん水無がやったことは決して許されることではないと思う。今回の事件だけでも、彼女の『予言』によって多くの人の命が奪われたし、もしかしたらこれまでも緋紅の協力者として暗に陽に悪事を働いていたのだと思う。
それでも・・・。
ひとり残った自分の肉親を守りたいという彼女の思いは本当だったはずだ。なのに、そのたったひとつの願いが、当の本人にはまるで伝わっていなかった。嫉妬心から自分を排除しようとしている・・・そんなふうに、まるで真逆に捉えられてしまっていたのだ。
「綾音よ」
ダリに促され、私はやっと水無の墓前から立ち上がることができた。やっぱり胸が詰まるような苦しさは消えなかった。
あの戦いのとき、私は確かにキヌギヌの言葉にとてつもない嫌悪感を抱いていた。しかし、同時に、妙な違和感も覚えていたのだ。その時はわからなかったその感覚が何であるかがはっきりしたのは、戦いを終えて数日が経ったころだった。
「ねえ、ダリ・・・彼女の言ったことは嘘じゃなかったよね」
彼女があの戦いの最中で私たちに語った慙愧の念――
『かつて、私は過ちを犯しました』
『母の死を、父の狂気を見てしまった』
一度目は好奇心から禁断の神宝の力を使い、
そして、今回は嫉妬心から妹がダリに殺される未来を見てしまった。
彼女は後悔したに違いない。自分を責めて、責めて、責め続けただろう。
そして、後悔しても誰にも頼れずに、もちろん妹にそれを言うこともできなかった。
だからこそ、その破滅の予言が成就する前に、適合者でもないのに八握剣を用いてダリに挑んだし、私たちが沖津鏡の呪縛を破ったと知るや、私達に対して涙ながらに妹の命乞いをしたのだ。
彼女は生命を削ったのだ。それでも妹の死だけは防ぎたいと思ったのだ。
「ああ、あの者は泣いていたな」
ダリもポツリと答えた。
――妹を死なせたくない
という彼女の言葉に、絶対に嘘などなかった。
にも関わらず、当の妹であるキヌギヌの認識はまるで違った。
全く、話が噛み合ってなかったのだ。
同じ水無という人間を見ているはずなのに、私の目に映っている彼女と、キヌギヌの目に映っているそれが全く符合しない。
その違和感に、私は不気味さを超えて恐怖心すら覚えたのだった。
「キヌギヌは笑っていたよ・・・。あんなの、水無が可哀想だよ」
もちろん水無がやったことは決して許されることではないと思う。今回の事件だけでも、彼女の『予言』によって多くの人の命が奪われたし、もしかしたらこれまでも緋紅の協力者として暗に陽に悪事を働いていたのだと思う。
それでも・・・。
ひとり残った自分の肉親を守りたいという彼女の思いは本当だったはずだ。なのに、そのたったひとつの願いが、当の本人にはまるで伝わっていなかった。嫉妬心から自分を排除しようとしている・・・そんなふうに、まるで真逆に捉えられてしまっていたのだ。

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