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天狐あやかし秘譚
第127章 有為転変(ういてんぺん)
☆☆☆
やっぱり私の授かった辺津鏡こそ最強の神宝よ・・・。

私は心の中でほくそ笑んでいた。死角を作り出す術についてはどんな相手であっても、ほぼ一瞬でかけることができる。そうして近づいて夢に引きずり込みさえすれば、それがたとえこの世界で最強の人間であってもあっさりと殺すことができる。

・・・天狐だけは例外だけど・・・

最初、天狐も同じように洗脳できると踏んでいた。
しかし、鏡の力でその心の内を覗いた瞬間、キヌギヌの身体は絶望感に似た恐怖に震えた。

無辺とはこのことだ・・・そう思った。

見通しきれないのだ。どんな人間でも、辺津鏡を使えば、その心の隅々まで一息に見通すことができる。そして、見通しさせすれば、それを詳細に観察することも、淫らな夢に堕とすことも、一瞬の内に身体の動きを奪うことも可能だ。なのに、天狐のそれは広大過ぎて見渡すことすらできなかったのだ。

その時はなぜかわからなかった。
しかし、後で思い至ったのは、天狐の生きた歴史の長さだった。
普通の人間はせいぜい100年。
それが天狐になると数千年なのだ。

これまで、人外の者の心を覗いたことがないわけではないが、天狐は規格外だったというわけだ。

だが、そんな天狐も知覚だけは操ることができる。その知覚の隙に潜み、こうして人質を取ってしまえばなんとでもすることができる。

まずはこの綾音という女を目の前でお姉ちゃんに殺させて、その後、姉自身を彼らの目の前で自殺させよう。

どうせ裏切り者・・・あの緋紅様が裏切ったお姉ちゃんを許すはずがない。ならば私が殺してあげた方がいくらか『楽』に死ねることだろう。

その後に、もう一人いる陰陽師も操り、二人がかりで天狐を仕留めてしまえばいい。たとえ天狐を倒せなかったとしても、綾音とかいう女を仕留めれば私の大金星は固いわけだし。

お姉ちゃんには申し訳ないけれども、自業自得よ。
ひとりで突っ走って敵に負けた上、神宝も取り上げられそうになって・・・しかも裏切りとか?

お姉ちゃんが天狐に私の命乞いをしていた。
私が負けると思っていたのだ。
自分なら勝てるけど、私は負けると思ったのだ。

「そんなわけないじゃない」

私の辺津鏡は無敵なのだから。
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