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天狐あやかし秘譚
第117章 献身奉仕(けんしんほうし)
☆☆☆
ガン!
大きな音が家に鳴り響いた。父が『おばけの間』の平机を思いっきり拳で殴りつけたのだ。父の目の前には弁護士の先生が、その横には真っ青な顔をしているババがまるでそのまま消え入りたいと思っているかのように身体を縮こまらせて座っていた。
「それやったら、なんや? 俺は・・・俺は親父に見捨てられたんか。・・・そういうことかいな!?」
父が呻くように言った。父の横に座っていた誠二郎おじさんは、そんな父に冷ややかな視線を向けている。そのさらに隣に座っている良子おばさんは、藤塚の家を出ている身だからだろうか、『勝手にやって』とばかりにお茶を飲んでいた。
6月に、ジジが亡くなったのだ。脳梗塞で急死だった。
そして、生前に準備されていた遺言状が弁護士に寄って、父、その弟である誠二郎おじさん、妹の良子おばさんの前で読み上げられた。
内容は『誠二郎に家督を継がせる。家を譲り、財産の管理を任せる』というものだった。
この内容に父は激怒したのだ。
前にも言ったように、藤塚の家の財産などたかが知れている。父が怒ったのは、多分そこじゃない。自分が認められなかったこと、『ダメだ』と烙印を押されたことが、父のプライドをひどく傷つけたのだ。
「そういうわけやないんえ。そないな風に思わんといておくれ」
ババは必死にとりなそうとしていたが、父の怒り・・・いや、もしかしたら悲しみかもしれないが・・・は、収まることはなかった。
父はそのまま立ち上がると部屋を後にして、戻ってくることはなかった。
この日、水有はいつも入り浸っている友人宅にいっており、家にはいなかった。母は台所に引きこもっていた。私だけがそっと襖の隙間からその光景を覗いていたのだ。
胸がドキドキして、手足が冷たくなる。
あの日鏡の中に見た『光景』が否応なく頭の中に蘇ってきてしまう。
今、部屋を出ていった父の表情は、あのときに見た父のそれに瓜二つだったのだ。
鏡の中の父は、眉間に皺を寄せ、憎しみがこもって燃え立つようにギラギラとした目に歯を食いしばっていて、そのさまは般若か鬼のようだった。
事態は着実に悪い方向に行っている。そして、そのことに私だけが気づいている・・・。
私は背筋に冷水を浴びせられたような気持ちになっていた。
ガン!
大きな音が家に鳴り響いた。父が『おばけの間』の平机を思いっきり拳で殴りつけたのだ。父の目の前には弁護士の先生が、その横には真っ青な顔をしているババがまるでそのまま消え入りたいと思っているかのように身体を縮こまらせて座っていた。
「それやったら、なんや? 俺は・・・俺は親父に見捨てられたんか。・・・そういうことかいな!?」
父が呻くように言った。父の横に座っていた誠二郎おじさんは、そんな父に冷ややかな視線を向けている。そのさらに隣に座っている良子おばさんは、藤塚の家を出ている身だからだろうか、『勝手にやって』とばかりにお茶を飲んでいた。
6月に、ジジが亡くなったのだ。脳梗塞で急死だった。
そして、生前に準備されていた遺言状が弁護士に寄って、父、その弟である誠二郎おじさん、妹の良子おばさんの前で読み上げられた。
内容は『誠二郎に家督を継がせる。家を譲り、財産の管理を任せる』というものだった。
この内容に父は激怒したのだ。
前にも言ったように、藤塚の家の財産などたかが知れている。父が怒ったのは、多分そこじゃない。自分が認められなかったこと、『ダメだ』と烙印を押されたことが、父のプライドをひどく傷つけたのだ。
「そういうわけやないんえ。そないな風に思わんといておくれ」
ババは必死にとりなそうとしていたが、父の怒り・・・いや、もしかしたら悲しみかもしれないが・・・は、収まることはなかった。
父はそのまま立ち上がると部屋を後にして、戻ってくることはなかった。
この日、水有はいつも入り浸っている友人宅にいっており、家にはいなかった。母は台所に引きこもっていた。私だけがそっと襖の隙間からその光景を覗いていたのだ。
胸がドキドキして、手足が冷たくなる。
あの日鏡の中に見た『光景』が否応なく頭の中に蘇ってきてしまう。
今、部屋を出ていった父の表情は、あのときに見た父のそれに瓜二つだったのだ。
鏡の中の父は、眉間に皺を寄せ、憎しみがこもって燃え立つようにギラギラとした目に歯を食いしばっていて、そのさまは般若か鬼のようだった。
事態は着実に悪い方向に行っている。そして、そのことに私だけが気づいている・・・。
私は背筋に冷水を浴びせられたような気持ちになっていた。

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