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天狐あやかし秘譚
第114章 天道是非(てんどうぜひ)
☆☆☆
昼間は蒸し暑かったけれども、夜になると少しだけマシになる。
宿舎の屋上にある手すりに身体をもたれさせたまま、ぼんやりと眺める空には、まん丸のお月さんが昇っていた。

いや・・・丸じゃないか、ちょっと欠けてる。

ここは陰陽寮京都支部にある研修施設に併設された宿泊所だ。公務員の宿泊施設ということで、なんとなく簡易的なものを思い浮かべていたが、なかなかどうして、一流ホテルとは言わないけれども、それに匹敵するほどのクオリティだった。

部屋は1人部屋から8人部屋まで各種用意されており、基本は和室。各部屋にバス・トイレがついているのはもちろん、温泉をひいた大浴場やジムまで備わっている。さらには、レストランは和洋中の三種類が用意されており、どのレストランシェフも帝国ホテルクラスのホテルで腕をふるっていた経歴を持っていると言っていた。

・・・京都支部・・・金ありすぎだろ。

まあ一概に京都支部を責めるのもお門違いだったりする。ここは、陰陽寮における言わば中央研修施設に相当し、多くの陰陽師のレベルアップのための研修が日々行われているのだ。御九里によると、陰陽師から陰陽博士・・・つまりは位階をもらうための審査もここで行われるらしい。

金があるからというだけではなく、もともと日本の呪術界の中心にいたという矜持が、この施設を作らしめたということらしい。

私はダリと同室で、ここの研修施設の4階に部屋をいただいたのだが、いかんせんさっきのことがショックで寝付けず、こうして屋上に出てぼんやりとしているというわけだ。


「とんでもないことになっちゃったね」
ポツリと呟く。

もちろん、ここにいるのは私ひとりではない。
「綾音・・・我がついていながら・・・すまない」

私の左後ろにある塔屋の上にいるダリが、申し訳なさそうに答えた。
ダリは自信家だ。
自分の力に絶対の自信があるだけに、『力ではどうすることもできないこと』に直面して、彼もまたショックを受けているわけだ。

「ううん・・・しょうがないよ。
 あんなことになるなんて、わかんなかったもん」

そうだ、分からなかった。
だから御九里が悪いわけでも、ダリが悪いわけでもない。
私だって、賛同して参加したんだから・・・今はそれを考えてもしょうがない。
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