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天狐あやかし秘譚
第106章 形勢逆転(けいせいぎゃくてん)
更に二回、扉が激しく叩かれるような音と『ぐうぅうあっああ!』『きぃぇええっ!』といったような奇妙な叫び声が響き渡る。橋本は恐ろしさのあまり歯の根が合わず、しかも腰も抜けてしまい、ガクガクとその場で震えることしかできなかった。そんな様子を見て、武井が慌てて彼を部屋の中に引っ張り込む。

「おい、何だあれ!?お前のストーカーか?」
バタンと扉を閉め、武井が背中で玄関に通じる部屋の扉を押さえつける。扉の向こうでは、まるで何かが取っ組み合いをしているかのような音がし続けていた。

「わ・・・わかんねえよ!」

橋本もそうとしか言いようがない。あれが何なのか、外で何が起こっているのか、自分の身に何が起こっているのか、何一つわからない。唯一わかることは、尋常ならざる何事かが起こっているということである。

そ、そうだ・・・御札!

思い出した橋本は、バッグを引っ掴むとそこから財布を取り出し、九条から預かった御札を手に取った。

『助けてくれ!』

ひたすらにそう念じる。一分ほどそうしていると、『ぎぃやああああっ!!!』という、正に断末魔と言うのにふさわしい絶叫が響き、唐突に玄関扉を叩く轟音が鳴りを潜めた。

終わった・・・のか?

おずおずと橋本は顔を上げ、こちらもまた混乱した様子の伊藤と目が合った。彼の正面では、必死に扉を背中で押さえていた武井もゆっくりと振り返り玄関の方を伺った。

互いに目配せをする。
しばらくじっとしていた三人が、ふと肩の力を抜く。

「今のは・・・一体・・・」

伊藤が言いかけた時、再び廊下から悲鳴に似た女性の叫び声が響き渡る。

「「「ひぃいい!!」」」

この後、あまりの恐怖に震え上がった三人が安全を確信し、外の様子を伺ってみようと思うまで、たっぷり20分ほどはかかったのであった。
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