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天狐あやかし秘譚
第97章 【第19話:地狐】温慈恵和(おんじけいか)
☆☆☆
その日から2日間、私はなんとか『母の襲来』をやり過ごすべく、あらゆる手を尽くそうと努めた。

そもそも、この家にいる『人間』は私一人であり、後は妖怪厭魅のたぐいだ。この『綿貫亭』の現状をそのまま見せることなどできようはずもない。

ダリを『彼氏』として紹介し、同棲してるんだ・・・っていうのも考えた。しかし、おっとりとはしているものの、古い価値観を持つうちの母親に対して、婚前に男性と同棲しているなどと告げることはとても憚られる。ましてやこの場合、清香ちゃんや芝三郎をどう説明する!?

私の子ども?

も・・・もし、そんなこと言ったら・・・

『いつの間に産んだと?』
『なんで未婚なん?』
『お母さんになんの相談もなしに産んだっちいうん?二人も?いつの間に?』

あの口調のまま、ぐい、ぐい、ぐぐいと私に迫ってくるのは目に見えている。黒黒としたオーラを纏いながら、張り付いたような笑顔の母に壁際に追い詰められ、ひえええっと冷や汗をかく自分の姿が容易に想像できる。

じゃあ、ダリの連れ子と説明するか・・・?

その場合・・・

『連れ子のおる人と結婚? それであんたはよかとね?』
『ダリさん? どこの人ね? 向こうのご両親にもきちんと挨拶せんといけんやろ?』
『いや、だいたい同棲っちどういうことね? ちゃんと結婚せんといけんやろ? なんか都合でもあると? どうなん? 綾音?』

・・・グイグイと迫って来ることに変わりはない。追い詰められる場所が壁際になるか、誰もいない寝室になるかの・・・違いぐらいだろう。

じゃあ、清香ちゃんと芝三郎を一週間、どこかに預けて・・・ついでにダリも?
そんなことが出来るのは陰陽寮しかない。

しかし、瀬良と土御門に相談したところ、非常に渋い顔をされてしまった。

『うーん・・・事情はわかるんやけど・・・』
『ここ、一応、職場ですし・・・宿泊施設とか特にないんですよねえ』

そりゃごもっともでございます。

ダリに異界を作ってもらって、そこに母が来ている間、清香ちゃんや芝三郎を匿うというアイデアもあったが、母がいる間、清香ちゃんたちの食事をどうするんだということになり、この案も頓挫する。
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