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天狐あやかし秘譚
第76章 人面獣心(じんめんじゅうしん)
かといって、ずっと安全であるわけではなかった。同室の女性に聞いてみると、数週間に一度『供物だ』と言われて、ひとりずつ女が牢から連れ出されることがあるのだという。連れ出される女性に法則性はないようで、皆一様に次は自分ではないかと恐れおののいているというのだ。

ミオが来てから2週間目に『供物』が選ばれるところを見ることができた。ミオたちが捕らわれている牢の向かい側の牢から選ばれていたので、その様子をつぶさに見ることができた。紺色の頭巾を被った『看守』・・・看守というのは捕らわれている女性からの言い方で、ここの屋敷の人は、それを『従者』とよんでいた・・・が二人で牢から女性を一人連れ出していた。その女性は、まず風呂に連れて行かれて、看守二人がかりで入念に身体を洗浄され、その後、髪を整えられたり、化粧を施されたりしていた。それらが終わると、服を剥ぎ取られ、裸にされ、後ろ手に縛られて、上に続く階段を通じてどこかに連れて行かれたのだ。

そして、その女性は二度と帰ってくることはなかった。

同室の子の中でも長くここに囚われている人がいるが、その子が言うには、『上』に行って戻ってきた女性はこれまでひとりもいないということだった。

なんとか逃げ出したりできないかとミオも考えたことがあった。しかし、周囲の女性たちに聞くと、皆一様に首を振る。

やはり、こういうところに囚われていると何人かにひとりは逃げ出そうとしたり、看守に逆らったりなどする人がいるというのだ。しかし、その全てが悲劇的な結末に終わっているという。

ミオが来てからも一度、『看守』の隙をついて、逃げ出した女性がいた。上への階段を駆け上がって行ったのだ。しかし、すぐにその女性は連れ戻された。看守が、縛り上げられたその女性を皆の前にさらしてこう言った。

『こいつは、反乱を試みた。お館様の御身体の一部になるという栄誉に与る価値のないものとされた。よく見ておけ・・・逆らった者がどういった目にあうのか』
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