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天狐あやかし秘譚
第75章 生離死絶(せいりしぜつ)

「土門!左前!隙を!」
「はいさ!」
「承知!」
土門が懐から符の束を取り出し、天に向かって放り投げる。ひらひらと周囲に舞い散る符には『魂』と一文字だけ書かれていた。
「陰陽五行 歳星 死門 奇魂勧請!・・・舞いあがれ!夜魂蝶!!」
結んだ手印と呪言に反応し、無数の符が青白い燐光を発する。符は溶けるように形を変え、淡く光るアゲハ蝶の姿に変貌する。
土門の式神、夜魂蝶である。
その繊細で美しい式神は、戦闘能力こそ低いが、調査能力、及び撹乱能力に優れていた。蝶たち宙空で一頭が二頭に、二頭が四頭にとその数を増やしていく。瞬く間に緋紅の周囲は夜魂蝶で満たされ、それは四方から襲いかかり、その明滅する光で視野の大半を奪っていく。
「ほお・・・なんだい?これ?曲芸みたいだね!?」
八握剣を横薙ぎにすると、その軌道上の夜魂蝶はあえなく消失した。しかし、それだけである。他の蝶たちは依然として緋紅の周囲を飛び回り、彼を撹乱し続ける。
ーこの蝶・・・力の収束を妨げるのか?
八握剣のギアを上げようとするが、思うように神力を集中させられないことに緋紅は気付いた。
ーへえ・・・流石だね。でも、脆弱だよ!
緋紅は八握剣を上段に振り上げ、そのまま大地に叩きつけた。
たったそれだけだったが、剣により増強された膂力と、剣自体に宿る力のお陰で、その衝撃は爆発的な空気の波となって周囲に炸裂した。
「きゃああ!!」
耳をつんざくほどの爆音の中、土門が悲鳴を上げる。彼女が勧請した無数の蝶たちは、この一撃でほぼ全滅してしまう。
「弱いねえ・・・」
しかし、土門が作った僅かな隙で、左前が次の行動をすでに起こしていた。
『法位を具し上言する。鬼神勧請し呪詛百重なり 百盟之鬼 怪異妄生 妖祥屢起 臣に訴え呪詛祓え給え』
朗々と奏上される呪言に反応し、彼が胸の前で構えている銅鏡が青く強い光を放ち始める。
『太上老君 太上丈人 三師君夫人 門下典者 神省を垂れよ
春三月寅卯辰の呪を祓え 東方九夷甲乙君
夏三月巳午未の呪を祓え 南方八蛮丙丁君・・・』
左前は己が呪力を高め、手にした『水天鏡』に流し込んでいく。
「はいさ!」
「承知!」
土門が懐から符の束を取り出し、天に向かって放り投げる。ひらひらと周囲に舞い散る符には『魂』と一文字だけ書かれていた。
「陰陽五行 歳星 死門 奇魂勧請!・・・舞いあがれ!夜魂蝶!!」
結んだ手印と呪言に反応し、無数の符が青白い燐光を発する。符は溶けるように形を変え、淡く光るアゲハ蝶の姿に変貌する。
土門の式神、夜魂蝶である。
その繊細で美しい式神は、戦闘能力こそ低いが、調査能力、及び撹乱能力に優れていた。蝶たち宙空で一頭が二頭に、二頭が四頭にとその数を増やしていく。瞬く間に緋紅の周囲は夜魂蝶で満たされ、それは四方から襲いかかり、その明滅する光で視野の大半を奪っていく。
「ほお・・・なんだい?これ?曲芸みたいだね!?」
八握剣を横薙ぎにすると、その軌道上の夜魂蝶はあえなく消失した。しかし、それだけである。他の蝶たちは依然として緋紅の周囲を飛び回り、彼を撹乱し続ける。
ーこの蝶・・・力の収束を妨げるのか?
八握剣のギアを上げようとするが、思うように神力を集中させられないことに緋紅は気付いた。
ーへえ・・・流石だね。でも、脆弱だよ!
緋紅は八握剣を上段に振り上げ、そのまま大地に叩きつけた。
たったそれだけだったが、剣により増強された膂力と、剣自体に宿る力のお陰で、その衝撃は爆発的な空気の波となって周囲に炸裂した。
「きゃああ!!」
耳をつんざくほどの爆音の中、土門が悲鳴を上げる。彼女が勧請した無数の蝶たちは、この一撃でほぼ全滅してしまう。
「弱いねえ・・・」
しかし、土門が作った僅かな隙で、左前が次の行動をすでに起こしていた。
『法位を具し上言する。鬼神勧請し呪詛百重なり 百盟之鬼 怪異妄生 妖祥屢起 臣に訴え呪詛祓え給え』
朗々と奏上される呪言に反応し、彼が胸の前で構えている銅鏡が青く強い光を放ち始める。
『太上老君 太上丈人 三師君夫人 門下典者 神省を垂れよ
春三月寅卯辰の呪を祓え 東方九夷甲乙君
夏三月巳午未の呪を祓え 南方八蛮丙丁君・・・』
左前は己が呪力を高め、手にした『水天鏡』に流し込んでいく。

