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淫夢売ります
第28章 白の花園:知らない夢
☆☆☆
大学二年の春。
とうとう私、新海裕美(しんかいひろみ)にも彼氏なるものが出来た。彼の名は『木暮大知(こぐれだいち)』。私と同じ情報生物学部の同級生だった。理系の男子にしてはハキハキしているし、こざっぱりした性格で好感が持てた。学部コンパなどで何度か話す内に親しくなり、大知からの押しで付き合うようになった、というのが経緯だった。

交際を始めたのが今年の2月末。それまで知らぬ仲ではなかったので、特にすぐに何が変わるということはなかった。

春休みに何度か計画を立てて遊園地やアミューズメント施設に遊びに行ってみたり、映画館に行ったりなどはしてみた。一緒にいて、イヤじゃないし、学部も一緒なので話も合う。付き合い始めはあまりピンときてなかったが、1ヶ月くらいしたころには、なんとかだが、まあ、これはこれでいいかな、と思い始めていた。

しかし、その関係が少し変わる事態があった。

あれは、4月に入ってすぐのこと。
桜が盛りになり始め、夜桜を見に行くということで東京の某有名お花見スポットに出向いたときのことだった。少し早めに待ち合わせをして、レストランで夕食を摂り、散歩がてらブラブラとと夜花見物をしようという計画だった。

お花見スポットは小高い丘のようになっていて、その丘一面に桜が植わっている感じのところだ。程よいアップダウンがあり、見て歩くのにちょうどよかった。夜空をバックにライトアップされた桜の花がきれいで、ため息が出そうだった。

山の横に川が流れており、その川沿いも歩くことが出来た。その通りは、それほど桜が咲いているわけでもなく、人も少ない。しばらく人込みの中を歩いて疲れてしまったので、そのしっとりと落ち着いた雰囲気は心地よかった。道沿いには時折、下に降りる道があり、そこは親水公園になっているんだと彼が教えてくれる。

なんとなく、ハラハラと散る夜桜を見てロマンチックな気分になっていたことと、見物がてら飲むためにコンビニで買った缶チューハイのアルコールが程よく回っていたのもあって、親水公園の暗がりで、求められるまま大知とキスをした。

ふわんと先ほど大知が飲んでいたチューハイのレモンの香りが漂っていた。

それは、私にとって初めてのキス、だった。
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