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千一夜
第35章 第六夜 線状降水帯Ⅲ ②
 攻守交替。今度は自分が和子を犯す。伊藤は和子の体を下にして和子の乳首を舐めようとした。そのときだった。
「ちょっと待って、休憩させて」
「休憩?」
 いつもの和子なら一度いったくらいで休憩させてくれなんて言わない。
「さすがに疲れたわ。お昼はずっとお子ちゃまの子守をしていたんですもの」
「ありがとうございました」
 伊藤は和子に紗耶香のアリバイ作りを手伝わせた。紗耶香は英語がまるでダメなのだ。伊藤は、英語が堪能な和子に通訳を頼んだ。
「それにしても伊藤君はものすごいお金持ちなのね」
「……」
 当たり前だが、はいそうですとは言えない。
「ここはダウンタウンからそう遠くないし、アトランタで一番治安がいいところでしょ。それに高級スーパーも近くにあるし、外国人が安心して暮らせるところね」
「だから買いました」
「だから買いましたって、そういう台詞一度でいいから言ってみたいわ」
「先生も別荘をお持ちですよね?」
「あるわよ、軽井沢に小っちゃい別荘が」
「小さいだなんてご謙遜を」
「事実を言ったまでだわ。学者はどんなに偉くなっても小さな別荘とベンツに乗るくらいにしかなれないわ。伊藤君の住む世界とは全然違うのよ」
「……」
 和子の言っていることは真実だ。学者は学問を追求する。経営者は金を追求する。
「そう言えば、伊藤君の会社は軽井沢に複合商業施設を作る予定なんでしょ?」
「はい」
 すでに発表済みのことなので伊藤はそう返事をした。
「対象は富裕層だとか、それって本当?」
「その通りです。ターゲットは四十代以上の男女。ファッションも食もそして娯楽もすべてお金にゆとりがある世代に向けて情報や商品を提供させていただく予定です」
「もうすっかり経営者になったのね。伊藤君はもう小説を書いたり、映画を作ったりしないの?」
「小説は書いていますよ。だから先生に翻訳をお願いしたんです。でも映画を作る時間が今の僕にはないですね。そっちは若いやつらに任せています」
「寂しくない?」
 和子はそう言うと伊藤の肉棒を掴んだ。
「寂しいとかそういう感情は、忙しさの中に紛れ込んでしまいます」
「こっちの方も忙しいのよね」
 和子は伊藤の肉棒を掴んでいた手に力を入れた。
「先生のご想像に任せします」
 ようやく伊藤は和子の乳首をしゃぶることができた。熟女? 老女? の発情した匂いが伊藤の鼻孔を通った。
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