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熱帯夜に溺れる
第5章 沈殿する夏、静止する冬
 純の父親は現在65歳、母親は63歳。父親はじきに60代の後半に差し掛かる。
 今は目立った病気の兆候はないが、70代80代ともなれば病院とは無縁ではいられないだろう。

「親父達の老後は考えていますよ。いざとなれば施設やヘルパーを頼めるようにその分の貯金もしています。叔母さんに迷惑はかけません」
「迷惑だなんてことはないけどさぁ。……崇史《たかし》くんが生きていたら、この家も今頃はお嫁さんと孫がいて賑やかだったのかねぇ」

 叔母の一言が純の心の奥深くに鋭く刺さる。崇史は自殺した兄の名前だ。
 これ以上の長居は無用と判断した彼は、自分の分の湯呑みを持って腰を上げた。

「俺はそろそろ帰りますね」
「もう帰るのかい? 夕飯まで食べていけばいいじゃないか」
「兄貴の仏壇には供えても、俺の分は最初から用意してはいないでしょう。叔母さんも、母の俺への態度は理解しているじゃないですか」
「純くん……。なぁ、私のことまだ恨んでいる?」

 唐突な質問の意味が純にはわからない。眉を下げて不安げにこちらを見つめる叔母を彼は見下ろす。

「恨むとは?」
「崇史くんがいなくなった後に兄さんと義姉さんが純くんにしてきた仕打ちを私らは見て見ぬフリをした。あの頃はとにかく子供を亡くした兄さん達が可哀相で……。純くんに辛く当たる兄さん達を誰も止められなかった。純くんだって辛かっただろうに。……悪いことをしたと、思っているんだよ」

 叔母の最後の一言は歯切れが悪く、消え入るように小さな声だった。

「……確かに誰も助けてはくれなかったですよね。誰も、俺を殴る父と俺を無視する母に何も言わなかった。正直に言うと叔母さん達を恨んでいないとは言えません。でも叔母さんは、何度か俺を家に招いて夕飯を食べさせてくれましたよね。叔母さんが作ってくれたカレーや煮物が美味しかったことは覚えています。恨みもありますが、感謝もしています」

 偽りのない純の本音だった。叔母は心を閉ざした母親の代わりに何かと純の世話を焼いてくれた。
 苦手な人ではあるが、嫌ってはいない。

「もう親を恋しがる年齢でもありませんし、俺は独りでも充分やっていけます。心配は無用ですよ」

 何も言えなくなった叔母を残して実家を後にする。次にここへ来る機会は年始の挨拶までないだろう。
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