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第52章 悲しい再会（第八部）

「圭子ぉっ・・・」

呼び止める声に振り返った表情に少女の親友は一瞬、声を詰まらせた。

「なぁに・・・・？」

天使のようなあどけない顔は、微笑みにかげりが見える気がした。

以前から知っている圭子ではなく、別人のように感じたのである。

「クラブやめたって、本当なの？」

「うん・・・・」

問いかけに答える圭子の声は、力なく聞こえた。

「あんなに頑張ってたのに、どうして・・・私達のダブルスだってレギュラーになれそうだったのに」

「うん・・・・。」

親友の訴えにも圭子は同じ生返事を繰り返すだけだった。

「圭子・・・・」

去っていく圭子の肩越しに、親友の声が空しく響いていた。

「矢島君っ・・・」

校門を出て、交差点に差し掛かった時に再び呼び止められた少女はハッと顔を上げた。

「ま、まもる・・・君」

愛おしい顔がそこにあった。

日に焼けた若者らしい精悍な表情は、ひどく懐かしい気持ちを圭子に抱かせた。

「何度も電話したのに、メールだって・・・」

親友と同じく、少年の声も苛立たしげに訴えていた。

伏目がちに聞いていた圭子は不思議な感覚に包まれていた。

かつて、この少年を唯一無二の恋人と思い続けたいた事が何か遠い昔の出来事のような気がしたからだ。

「ごめんね・・・さよなら・・・」

やがて校門に近づくと、別れの言葉と同時に少女は振り切るように走り出した。

「あっ・・・・」

素早い動きに、名前を呼ぶ事すら出来なかった。

色が変わった信号に交差点から一斉に人々が動き始めると、圭子の姿もあっと言う間に溶け込んで見えなくなっていた。

まるで蜃気楼でも見たように少年は呆然と立ち尽くすんでいた。