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爛れる月面
第1章 違う空を見ている
 仕事どころか手も早いよ。要は、私をさて置いて、すぐに光本さんを口説きにかかってるってことだろ。

 早田なんぞに出しに使われたことが、そして、所在を失くした左手を不恰好に下ろす羽目になったことが、紅美子の情動を下手に刺激してしまっていた。

「……部下のために、いい上司ですね」

 もういいや、と腕組みをして肩幅に開いた片脚へ重心を乗せた。その仕草を見た井上がまた、可笑しそうに笑う。

「君は澄ましてるより、そうしてたほうがずっと魅力的だね。彼氏の前でもそうなのかな?」

 ずいぶん年下の、かつ格下企業の何の役職も無いOLに睨まれては、憤慨する中年男も多かろうに、井上は笑顔を全く崩そうとしなかった。

「行きませんよ、私」
「意固地にならないほうがいいよ」
「なってませんが、これ以上しつこいとなるかもしれません」
「そうかい? 君にとっても、この話はプラスだと思うんだけどな」
「意味がわかりません。私にとっては何もいいことはないです」
「あの女の子は早田と飲みに行くとなったら死ぬ気で頑張るはずだ。いいことじゃないか。業務効率アップだ」
「……」

 紗友美が何重に猫をかぶっていようが、この男は見抜く能力があるらしい。確かに、奮起してシステム画面に向かう様子が、ありありと目に浮かんでくる。

「君は溜息が多いね。……ま、早田はともかく、僕も君を誘いたい」
「……やっぱりナンパですか?」
「ナンパするような歳じゃない。考えてもみてくれよ、三人で飲みに行って、早田は懸命にあの子を口説くだろう? その間、僕はどうすりゃいい?」
「飲んでたらいいじゃないですか」
「それにしても、美人と飲みたいね」
「あのね……」

 ナンパならその辺の軽そうな女でも拾っとけ、と言いかけて、また、携帯の着信に救われた。今回は自分の携帯。紗友美だ。

「……もしもし」
「長谷さんっ! いまどこで何やってるんですか!」
「思いっきり取り込んでる」井上を一瞥し、「うん、光本さんのせいで」

 もはや声は、全くコントロールできていない。その様子を、まだ井上は鼻につく笑みを浮かべたまま見守ってくるから、よけいに不機嫌に濁る。

「とっとと戻ってきてください! 定時までに伝票終わらせますよ!」
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