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爛れる月面
第3章 広がる沙漠
「私、ヘタクソかな?」
「わっ、わかんないよっ……、そんなの」
「……。そだね。比べるものが、ないもんね」内臓がずるりと引き出されるような言葉を自ら吐き、「でも、気持ちいい?」
「う、うん……、お、おかしくなりそう……」
「このまま出していいよ」
「だって、俺、ばっかり……」
「ううん。これしてると……、私も気持ちいいもん」

 つき慣れ始めた嘘ではなかった。実際、口内にはもう唾液が溢れかえり、一刻も早く、彼の吐き出す畢竟を感じたかった。喉奥まで貫かれ、嘔気に身をのたうたせて、これまで幾度となく外へ放たせてきた吐汁が、いかなるものだったかを確かめたかった。

(徹……)

 しかし、まるで玩具のように恋人の喉を抉り、吸わせ、たとえ最後まで導かれたとしても、直後から彼が甚だしい罪悪感に苛まれるのは疑いようがなかった。

「……顔に、出して」

 どうすればいいのかを思案する前に、そう口走っていた。言ってから、今の彼に捧げるには、それしかないと腑に落ちた。

 最初、徹は意味が解らずに呆然としたが、

「そ、そんなことっ、できないよっ!」
「したくない? エロ動画とかでも、あるんでしょ?」
「知らないよっ、そんなの……」
「ウソ。見たことなくても知ってるよね、そういうことするの」
「だからって、クミちゃんには、そんなこと……」
「徹」
 紅美子は硬度を下げかけた亀頭に口づけをし、「……結婚したらね、徹のもの、になるんだよ、私」
「でもクミちゃんは……」
「私を自分のものに、したいんでしょ?」

 記憶力の良い彼も、一か月以上も前にしたカウチソファの上での──まだ、安穏と彼の上に横抱きにされることができていた頃の、とりとめない会話を憶えていたようだった。怯んで消沈しそうになっていた肉幹が、指の中で回復していく。

「結婚、したら、ね。だから、それまでにちゃんと、私を……」
 結婚したら。あまり言っていると、できたら、と、取り返しのつかない言い間違いをしそうで、「……だから、出してね」
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