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爛れる月面
第3章 広がる沙漠
「だからね、徹にもゴム無しでさせてあげるつもり。そうじゃなきゃ、おかしいじゃん」
「だから、いま、言うことなのか? それは」

 井上が同じ質問をすると、

「誰かさんがずっとおっぱい触ってて、ちょっと乳首が痛いから」
 自分に対する軽口も、語尾が震えては白けさせられた。「……無理矢理連れて来られたにしてもさ、あんたがお風呂で待ってる間に、タクシー呼んで帰ればよかったんだ。高速走ってたって、窓開けて、大声で救け求められるじゃん?」

 そこまで言うと、開けていられず睫毛を下ろした。瞼の裏が熱い。

「徹のために、ピル飲み始めたの。次会った時ね、ナマでさせてあげたかったから。……でも」
 そこで唇を噛んだが、鼻声も、震えも収まらず、「……触られてる。あんたに急に呼び出されて、温泉にきて、それから、ご飯食べて……、てかその前にもう、一回挿れられた。んで……今から本格的にヤラれるのわかってんのに、一緒にお風呂に入ってる。……徹にさ、ゴム無しでいっぱいさせてあげよう、って思ってる前の日なのに」

 紅美子は長く息を吐いて、

「もうさ……、何、やってんだろうね、私」
 湯気の中で瞬きをすると、雫が幾粒も落ちた。「頭が割れそうだよ」

 井上に振り向かされた。膝立ちにされ、見上げられる。

「やっぱり、勃ってるし」

 鼻を啜り、足元を指摘した。ゆらめく水面の中で、井上の股間では肉茎が真上を向いている。背中を向けて話していた時から、凭れかかった腰で膨れあがっていくのを感じていた。

「……ああ」
「泣いてる女は、ダメなんじゃなかったっけ?」
「どうだったかな」

 湯を鳴らして井上が縁に腰をかけ、腕を引いて脚の間へ紅美子を引き寄せた。

「だから、したことないんだってば」

 湯の中では歪んで見えていた肉茎が、目の前に屹立していた。改めて見ると、唯一見たことがあるものとは色も形も違う。しかし脈動のたび、細かに震えているのは、同じだった。

「少しくらいなら、あるだろ」
「ううん。私がしたら、徹、きっとすぐに出しちゃうもん」
「……してくれ」
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