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シャイニーストッキング
第21章 もつれるストッキング5   美冴
 33 背徳感

 バタン…
 彼、大原浩一のマンションの玄関のドアが重々しく閉まった音が、逆に、わたしの心の扉を開く合図の音となった…
 そう、それは、欺瞞と罪悪感からの背徳的昂ぶりを後押しする禁忌の合図。

 そのドアの閉まる音を聞いた瞬間、わたしは彼を玄関框の壁へと押し付け…
「ん、あ、はぁ…」
 唇を貪るかのようにキスをする。

 わたしはあの『臨時休業』のホテルから、僅か徒歩5、6分の彼のマンションへ向かう道すがら…
 まるで見えないリードで繋がれたかのように握られた手で引かれながら後ろに付き、その漂うタバコの匂いと、微かに香る彼特有の甘い体臭の芳香に心を惑わさず、迷わぬようにと昂ぶりの心を必死に繋ぎ止め、歩き、付いていった。

 だから、ようやくマンションのエントランスに到着した時には、心の昂ぶりの衝動から彼に抱き付き、唇を欲したのだが…
 まるで幸せの象徴を表すかのような子供連れの家族が、エントランスからエレベーターまで同乗し、そして降りる階まで同じという経緯に本当は、少しでも早く彼を求め、抱かれ、淫らな衝動の海に沈み込みたかったのだが…
 『お預け』状態になってしまっていたのであった。

 だが反面…
 この幸せの象徴的な家族とエレベーター内で同じ空気を吸っていると、その夫から、なんとなく家族に対しての、いや、妻に対しての虚偽の匂いを感じ取り…
 この今のわたしの心いっぱいに溢れている背徳感が、より強く刺激されてもいたのだ。

 なぜならその夫からの、わたしの脚を、黒ストッキング脚を、チラ見してきた一瞬のいやらしい昂ぶりの目の輝きに…
 その妻、家族に対しての夫の隠された虚偽の愛情という匂いを強く感じてしまい、心が刺激されてしまったからである。

 それは…
 この幸せの象徴という何気ない日常にも、秘かに欺瞞という裏切りの衝動が隠されているのだ………と。

 だから、もうわたしの心の中が…
 欺瞞と罪悪感と背徳感という感情がぐるぐると渦巻き、心いっぱいに溢れ…
 玄関の閉まった瞬間に決壊し、抑える事が出来なくなってしまったのだ。

『そうよ、そう、彼を盗る、奪うのよ…』
 目覚め、騒めく心の中のメスが、そう、囁いてくる…

 そしてこの彼のマンションというロケーションが…

 更に裏切りの背徳感を、より強く刺激してきていた…





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