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Memory of Night 2
第41章 タイムリミット

千鶴の、無駄だと否定していた言葉がよみがえる。
確かにこんな穴掘り無意味なのかもしれないが、じっと座って死を待つだけは嫌だった。
宵は背後に、ちらりと半身を向けた。暗闇の中では視認することはできないが、千鶴が眠っているはずだ。彼女を死なせたくない気持ちも強くあった。
確かに彼女に興味を持った。その理由も、やっとわかった。酷い怪我の中、思い出したくもないであろう話を長々させてしまったことも悪いとは思った。興奮していた彼女の出血は確実にそのせいで増えてしまったのだろう。
だが、それよりも。死んでもいいと投げやりになっていた彼女が、少しでも前を向いて歩いていこうとしていたのだ。ここで途切れさせたくはなかった。
千鶴と同じように、死んでもいいと投げやりになってしまった時が宵にもあった。一年と少し前、不良達に目をつけられ、襲われた時だ。
あの日はちょうど志穂の手術日で、彼女が助かるならもういいかなと一瞬でも思ってしまった。
だが、魔が差したような感情を押しのけるように手を差し伸べてくれたのは晃だった。今だったら、もし同じ状況に立たされてももっと必死に抵抗しただろう。
千鶴にも、あの日晃が自分にしてくれたように、手を差し伸べたいと強く思った。
今さら身内とわかったところで、彼女が自分をどう思っているか伝えられたところで、千鶴への興味や感情が大きく動くことはないだろう。プラスにもマイナスにもならない。ただ、幸せに生きてほしいと思った。それは宵の中にある、千鶴への、確かな感情だった。
そのための方法はただ一つ。
(絶対にここから生きて出る)
決意を胸に、宵はざくざくと土壁掘りを再開した。

