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もうLOVEっ!ハニー!
第22章 三角の終焉

管理人室から出た廊下は夕日のオレンジに包まれていて、夕飯のいい香りが漂っていた。廊下の奥から二年男子らの声が聞こえる。今は誰にも会いたくないな、と西階段の方に足を向ける。
黙ってついてくるかんなに、言いたいことが何周か巡る。
小さな段差を繰り返し上る動作すら、億劫に感じた。二階に着いてから隣にまだいる彼女に、部屋に戻る気がないことを悟って自室を開き、招き入れた。
「つっかれたー……」
荷物を壁際に放り、ベッドにうつぶせに倒れる。シーツの冷たさが肌を包んで、眠気をくすぐった。玄関で止まったままのかんなを、寝ころんだまま見つめる。夕飯に行く前に数十分でいいから頭を空にしたい欲求と、今日あったことを話したい気持ちとがぶつかる。
「ごめん、なさい」
先に口を開いたかんなから、謝罪が出るとは思わなかった。
「話すんなら、こっち座って。マジで撮影燃え尽きてん」
撮影後の小脇の話の方が重く胸に残っているのだが、自分の中でも消化しきってから吐き出したい。もどかしい足取りでかんながお腹のあたりに腰かけた。無意識に腕を伸ばそうとしてしまったのを宙で止める。
「なにがごめん?」
まずは話を聞かな。
「……岳斗さんに、しなくていいことを沢山させてしまってる」
「やれって頼んだん?」
「……ううん」
「私のためにアパートに連れ出してよ、それよりもあの男がこの寮に入らんようにしてちょうだいよって。言うてないやろ」
「ふふ。私の真似うまいですね」
「こんなんより百倍可愛いわ」
冗談が通じるんなら、シャットアウトはされてない。温かい水が胸に満ちていく。拒絶されるんが一番きつい。
片手をシーツについて、振り向いたかんなの髪が夕日に照らされて綺麗に艶めく。今すぐ撫でて押し倒してベッドにパッと花みたいに髪が広がるんが見たい、と疼く。けれど疲労が興奮をいたずらに煽っているのも自覚して自制する。
「俺が来る前なに話しとったん?」
ばつが悪そうに口許に拳を押し当てて答える。
「……寮を出る理由を聞かれました」
「まさか話してないよな」
即座に否定が出てこないので、がばりと起き上がった。びくっと跳ねた肩を優しく掴む。
「話した?」
「いえ……ただ、つばるか……峰先輩が原因だって察してたみたいで」
「あー。ああ、そうか。そうよな。あの人は察するわな」
どこまで汲んだかは未知数だが。

