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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

わたしの中にわきあがるもの。
怜二さんのリビングのラグに落ちていた見慣れた指輪。
或いは、寝室の枕の下にあるピアス。
そのほか色々と、由奈さんの痕跡はあった。
だけど――。
――ああ、前に酔っ払って泊めたんだ。その時のだな。
――ごめーん。探していたの、わたしの指輪とピアス。なんだ、広瀬くんの家にあったんだ。
あまりにふたりがにこやかに、悪びた様子もなく爽やかにそう言うものだから、性別を超えた罪悪感のない関係だと思っていた。
……そう思わされていたのかもしれないと、少しでもふたりに猜疑心を持ってしまった時には、怜悧な巽の黒い瞳がじっとわたしを向いていた。
「ふん、図星か」
「ち、違……っ」
わたしの一瞬の動揺を見透かしたように、巽は揺らめきながら笑う。
怜二さんが由奈さんとセフレだった?
わたしはカモフラージュ?
巽の魅惑的な瞳が、わたしの心に一石を投じれば、水紋のように、後から後からわたしの心は波打ち、巽のリズムで揺れていく。
「あいつと由奈のセフレの関係を許していられるのなら……」
だからわたしは。
「お前は、あいつを愛してなんかいないということだ」
わたしは、巽の頬を平手打ちした。
「いい加減にして!」
その瞬間、わたしの心は逆立ち、わたしの心を支配していた巽のリズムは消える。
「結局はわたしが怜二さんを好きなことにいちゃもんをつけたいだけなんでしょう!? そのために自分の婚約者とわたしの恋人を貶めるなんて、最低じゃありませんか!?」
彼は下ろした長い前髪の間から、ぎろりと双眸を剣呑に細めた。

