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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

***
「専務、専務。おうちはどこですか?」
「ん……」
「おうちです。住所は?」
「んん……」
わたしに寄りかかって眠る巽。彼の背広には免許証というものは入っていなかった。
分厚い財布の中を失敬して広げてみても、十枚以上はある万札やらゴールドカードやら、庶民には見なれないものばかりが入っている。
「お客さん、どうしますか?」
どうしても巽が起きないのなら、仕方がない。
わたしは自分の住所を口にした。
巽はぐっすりと眠ってしまっているのか、頬ほぺちぺちと叩いても起きずに、わたしはおぶる……というより、ずるずると引き摺るようにして、なんとかわたしの家のドアを開けた。
「ふぅ、一階でよかった」
パチンと壁にある照明のスイッチを押して部屋を明るくさせると、小さな二人がけソファには、百八十センチはあるだろうこの巨体は可哀想だと思い、よいしょよいしょと寝室まで連れて、ベッドにどさりと巽を下ろした。
本当は今日はぐっすりとベッドで寝たかったけれど、仕方がない。
ソファで寝ようと思いながら、巽のネクタイを取っていると、巽の目が開いた。
「由奈は……?」
第一声が彼女のことか。
ちくりと、胸の奥に針で突かれたような痛みを感じる。
「由奈さんは、かなり酔っ払ったから、れ……広瀬課長が家に送り届けました」
「……恋人が他の女を家に運んでいる。それで嫌な気分にならないのか?」
とろりとしていたはずの目が、いつのまにかぎらついていた。
「専務、専務。おうちはどこですか?」
「ん……」
「おうちです。住所は?」
「んん……」
わたしに寄りかかって眠る巽。彼の背広には免許証というものは入っていなかった。
分厚い財布の中を失敬して広げてみても、十枚以上はある万札やらゴールドカードやら、庶民には見なれないものばかりが入っている。
「お客さん、どうしますか?」
どうしても巽が起きないのなら、仕方がない。
わたしは自分の住所を口にした。
巽はぐっすりと眠ってしまっているのか、頬ほぺちぺちと叩いても起きずに、わたしはおぶる……というより、ずるずると引き摺るようにして、なんとかわたしの家のドアを開けた。
「ふぅ、一階でよかった」
パチンと壁にある照明のスイッチを押して部屋を明るくさせると、小さな二人がけソファには、百八十センチはあるだろうこの巨体は可哀想だと思い、よいしょよいしょと寝室まで連れて、ベッドにどさりと巽を下ろした。
本当は今日はぐっすりとベッドで寝たかったけれど、仕方がない。
ソファで寝ようと思いながら、巽のネクタイを取っていると、巽の目が開いた。
「由奈は……?」
第一声が彼女のことか。
ちくりと、胸の奥に針で突かれたような痛みを感じる。
「由奈さんは、かなり酔っ払ったから、れ……広瀬課長が家に送り届けました」
「……恋人が他の女を家に運んでいる。それで嫌な気分にならないのか?」
とろりとしていたはずの目が、いつのまにかぎらついていた。

