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忘れられし花
第18章 花嵐
 仰向けに押し倒された光は、不思議な微笑みをみせた。

「……本当の私が知りたいのですか?」
「はい」

 奏が頷くと、光は微笑んだまま、手を伸ばして奏の手を握りしめた。だがそれはほんの一瞬のこと。細く暖かな手は、すぐに離れていってしまった。

「本当の私を知れば、きっとあなたは私のことが嫌いになります。本当の私はとても醜い……」
「光様は醜くなんかありません。光様はとても綺麗です!」

 幾度も自分を「醜い」と繰り返す光。逃げるように離された手を掴まえて、奏は握った。

「いいえ。私のような他人を羨み妬まずにはいられない人間が、綺麗なはずはありません。私は自分の足で歩き、世界を見ることができる人が羨ましく、妬ましい。なぜ、私の体は――」

 奏は握った手を引き寄せるようにして、苦悶の表情を浮かべる光を、きつく抱き締めた。

「人間なら誰だって他人を羨んだり妬んだりします。僕だってそうです。光様だけじゃありません」
「あなたが?」

 光は信じられないといった口調で、奏に訊ねた。

「そうです。僕の生まれた家はとても貧しかったので、毎日お腹一杯ご飯を食べられて綺麗な服を着た、裕福な家の子供が羨ましかったです」

 奏だって他人を羨んだり妬んだりしたことは何度もある。
 奏を口減らしのために男娼館に売り飛ばした両親を恨み、憎んだこともある。

 だが、光は。

 光が人を妬んだことがあるのは本当だろう。自分の体や生まれを疎んでいることも、奏は知っている。
 それでも、たとえ心の奥底で人を妬み羨んだとしても、光は決して人を憎むことも、人前にその感情を見せることもない。生前一度も会うことの叶わなかった母親のことも、光に暴力を振るいあまつさえ辱しめすらした父親のことさえ、憎んだりはしていない。
 いつでも光は、妬み、悩み、苦しみ、それらすべての負の感情を細い肩に背負い、どこまでも夢みたいに綺麗に微笑んでいるのだ。

 それが光の本当の強さであり美しさだった。
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