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埋み火
第2章 熾し火
(え? こんな帰り際に)


 ふりほどくべきなのか、そのまま握られ続ければいいのか。

 どうすればいいのか男に口説かれた経験のあまりない霧子はわからない。


(大人の女って、こういうときどう対応するのが相手にも恥をかかせずに済むのかなぁ)


 奥さんがいるじゃないですか、みたく言えばいいのだろうか、それともやめてくださいと強く言えばいいのだろうか、など一瞬でいろいろ考えてみたが、何が最適解かわからなかった。


「帰り時間を気にしちゃうよね、この距離だとやっぱりさ」

「……そうですね」

「だからつぎは泊まりたいんやけど、一緒に。ええかな」


 賢治の言うことも顔つきも、気のいい元上司から、「男」に変わった。じっと見られて、射られたように動けなかった。


「はい」


 霧子は自分でも驚くほど、硬くこわばった声で答えた。

 泊まりで、という意味がわからないほど霧子もさすがに幼くはない。

 反射のように返事してから「しまった」と思ったものの、今日いちにちを賢治と過ごして、霧子の中ではもうそれでいいと思うようになった。


(もういいの。ひろは、私のことなんか忘れてるんだから)


 来ない電話を待つのも、寂しさをわかってもらえないのも、博之の妻に嫉妬するのもほとほと疲れた。

 しかも今度は大型連休……シルバーウィークだ。博之とまったく連絡のとれない長期間で、そこで賢治が自分とそうなりたいのであれば、かまわない。


(苦しくて寂しい週末は、もういや)


 賢治なら近場にいて、こうして休みの日に自由が利くようだ。

 無理に霧子が平日、休む必要もない。

 今日は賢治が親切に舞鶴のあちこちを案内してくれたり、日差しの強さや歩いた疲れをいたわってくれてその優しさに心が安らいだ。

 観光地もほとんど賢治の運転で回れたから、足が痛むこともなかった。

 夫とも末期にはほとんど遠出などしなくなっていたから、男の運転で楽しく観光をするなど本当に何年ぶりかというほどだ。
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