この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
埋み火
第2章 熾し火

ひとりで生きることになったものの、霧子は夫に奪われていた十年の重みをいやでも思い知ることになった。
夫の幼稚な見栄や我が儘でフルタイムの銀行を退職し田舎で主婦になったものの子供に恵まれず、実家の使用人のようなかたちで体力も時間も奪われ離婚後には何も残らなかった。
扶養から外れると一人で生きて行くことも大変である、というのも思い知った。
そしてやっと出会った、臆病なほど優しくて心から惚れた男にはすでに妻子がいた。
年齢的にもあまり再婚相手に贅沢を言えない。
こうなると周囲の人間が全員、若いうちからしっかり計画的に幸せを捕まえたように見えてしかたない。
それでも博之が自分のことを愛してくれている、と思い込んでいるうちは頑張れたが、半月も連絡がないとこれはもうよくいう「自然消滅」なのだろうかと思えてならない。
博之はその盆休みの旅行では新潟の温泉に行くと言っていた。
夜は妻と同衾したのだろうか。
(私だって……私だって、ひろと旅行くらいしたいわ。せっかく東京に行ってあんな素敵なホテルに泊まっても、一人でダブルベッドに寝るのはつらいのよ)
自分の知らない博之の顔をいくつも知っている彼の妻への嫉妬で霧子は完全に思考の袋小路に嵌っていた。
どれくらいの頻度で妻を抱くのか。
あの優しい口調と手でどのようにベッドで尽くすのか。
(プレゼントなんていらない。晩ご飯だって割り勘でいい。私はひろと少しでも長く過ごしたいだけなのに)
今にはじまったことではないが、会えない期間が長いので布団に入れば寂しさで涙が出るし、気分転換に街を歩いても同じ香りのシャツの男とすれ違って切なくなる。
(私、男はこりごりだと思ってたのに。結局は男に依存して男に振り回されて生きるのかしら。疲れたわ、せめて奥さんのいない人と、恋がしたいな。好きな人とはもっと長い時間、一緒にいたい)
夫の幼稚な見栄や我が儘でフルタイムの銀行を退職し田舎で主婦になったものの子供に恵まれず、実家の使用人のようなかたちで体力も時間も奪われ離婚後には何も残らなかった。
扶養から外れると一人で生きて行くことも大変である、というのも思い知った。
そしてやっと出会った、臆病なほど優しくて心から惚れた男にはすでに妻子がいた。
年齢的にもあまり再婚相手に贅沢を言えない。
こうなると周囲の人間が全員、若いうちからしっかり計画的に幸せを捕まえたように見えてしかたない。
それでも博之が自分のことを愛してくれている、と思い込んでいるうちは頑張れたが、半月も連絡がないとこれはもうよくいう「自然消滅」なのだろうかと思えてならない。
博之はその盆休みの旅行では新潟の温泉に行くと言っていた。
夜は妻と同衾したのだろうか。
(私だって……私だって、ひろと旅行くらいしたいわ。せっかく東京に行ってあんな素敵なホテルに泊まっても、一人でダブルベッドに寝るのはつらいのよ)
自分の知らない博之の顔をいくつも知っている彼の妻への嫉妬で霧子は完全に思考の袋小路に嵌っていた。
どれくらいの頻度で妻を抱くのか。
あの優しい口調と手でどのようにベッドで尽くすのか。
(プレゼントなんていらない。晩ご飯だって割り勘でいい。私はひろと少しでも長く過ごしたいだけなのに)
今にはじまったことではないが、会えない期間が長いので布団に入れば寂しさで涙が出るし、気分転換に街を歩いても同じ香りのシャツの男とすれ違って切なくなる。
(私、男はこりごりだと思ってたのに。結局は男に依存して男に振り回されて生きるのかしら。疲れたわ、せめて奥さんのいない人と、恋がしたいな。好きな人とはもっと長い時間、一緒にいたい)

