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埋み火
第1章 忍び火
「気持ちよかったか?」

「うん、今まででいちばん」


 横たわったままぐったりしている霧子の腹をティッシュでぬぐうとそう聞いたが、トロンとした目で本当に気持ちよさそうに博之を見つめ返してきた。


(俺の何がいいんだろう)


 未だだらだらと白濁液を漏らし続ける先端をティッシュで押さえながらベッドの上の霧子を博之は見下ろした。

 わからない。

 ただのくたびれた中年男だ。

 プレゼントひとつ買ってやったこともなく、旅行に連れていくこともできない。

 自分の都合で東京まで呼びつけておいて旅費も半分ちょっとしか出してやれていない。

 会えてもホテルで数時間だけ、ほとんどはセックスして終わりだ。

 ことが済んで、さっと夕食を一緒にとったら妻の顔色を窺うように急いで帰る。

 考えてみると最低で最悪な男だ。

 だが、そんな男に抱かれて「幸せ」と言う女がいる。

 不憫でならない半面、たまらなく愛おしい。

 自分にすがりついてくる霧子を抱いてやっていると、自分にも存在価値がきちんとあるような錯覚に陥る。


(幸せだ、きり。本当に俺は幸せだ、だからごめんな)
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