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鬼ヶ瀬塚村
第1章 起承転結"起"
ペンネームは"下半身テロ"卑猥過ぎる名前に聞こえるが、これが今の僕の名前だ。

僕は売れない漫画家だ。
昔はそれなりの雑誌でそれなりの少年漫画を描き、それなりの知名度はあった。

ある不祥事で僕は華やかな少年漫画界を後にし、今はペンネームを変えて冴えない成人向け雑誌に連載している。

時々、都内の風俗やキャバクラなんかのコンパニオン募集のイラストの仕事がくる。

雑誌の中に僕が描いたお世辞にも可愛くない女の子が
『脱がなくって1日5万円♪』
と吹き出しを頭に浮かせている。
数cmで描かれた彼女は分厚い3cm近くある募集雑誌の中で一体何人に影響を与えたのだろうか。

一体何人が彼女を目にしたのか、僕にはわからないし知りたくもない。

僕は可愛い女の子が描けないのだ。
真理子さんに手伝ってもらって見よう見真似はするものの、真理子さんが描く生き生きした少女は僕のペン先から生まれた事は1度もなかった。

そんな僕だから、いくらエッチにいやらしい内容を描いたとしても、連載雑誌ではいつも後ろの方に見辛い色したザラ紙に印刷されているのだ。
そんな僕を真理子さんは嫌な顔一つせず見守ってくれている。

"私が稼ぐから、大丈夫でしょ?"

"ノブはいい主夫になりそうだね"

"えッ?ノブ今日暇ならトーン手伝ってよ"

僕は笑顔でいつも頷くけれど、心臓部分に剃刀を突き刺されたような痛みに耐えていた。

真理子さんが悪気があって言っているわけじゃないと自分に言い聞かせ、僕はいつも笑顔で頷いてきたんだ。

同棲と言うか、もうほとんど養ってもらっているように同居している僕ら。

こんなに距離が近いのに、僕はどうしてこんなにも真理子さんと離れているのだろう。

プライドだとか男の意地が凍えるように寒い。

暖かさを求めて真理子さんに手を伸ばせばいいのに、僕にはその勇気の欠片すらないのだ。

僕はいつも猛吹雪の中、窓の向こうに見える真理子さんを見ている。
暖かい暖炉のそば、彼女はとても美味しそうなサーロインステーキを食べている。

窓を叩けばきっと彼女は気付いてくれるのに…僕の体温は限界だ。
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