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第14章 修羅道

彼女が振り返り、僕を見る。

あの真理子さんは？
授賞式で奇声を上げながら喜んでいた彼女はどこへ行った？

落ち込む僕を必死になって慰めていた彼女はどこへ行った？

彼女が腕を伸ばしてくる。
そしてスルリと僕に絡みつき、顔を近付けてくる。

朝まで漫画の熱論していたあの彼女はどこへ行った？

仕事が増え始めて喜んでいた彼女はどこへ行った？

カナダの大地で雪の上に寝っ転がってニヤニヤしていた彼女はどこへ行った？

真理子さんが熱く火照った唇を僕の唇へと重ねる。
目の前に…ぼやけた大きな黒目があった。
僕の角膜まで覗きこむ勢いでこちらを見つめている。

忙しくてちっとも世話なんて出来ないはずなのに、子猫が欲しいと駄々をこねていた彼女はどこへ行った？

唇がゆっくりと離れていく。
"はぁ…"と熱い吐息が僕の顎に当たった。

狂ったように電話とメールを毎日毎日送ってきていた彼女はどこへ行った？

泣きわめき、騒ぎ、大暴れして僕に怒りをぶつけていたあの日の彼女はどこへ行った？

彼女の白い指先が僕のジーンズのベルトへと伸びていく。

何日も何日も繰り返し同じ言葉を僕の背中に浴びせてきた彼女はどこへ行った？