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愛されたくて ~わたしってイケナイ人妻ですか?~
第3章 結婚生活

私の妊娠を一番喜んだのは
両親だったのかもしれない。
まだ見ぬ初孫に思いを巡らせ
勝手に祝いの品々を贈ってきたりした。
私はといえば
心の中にぽっかりと穴が空いたようで
どこか自分のことのような気がせず
ぼんやりと過ごすことが多くなっていた。
妊娠したとわかっても
身体のどこかに変化があるわけではなく
赤ちゃんの存在さえも疑わしかった。
ただ
もう二度と
バスには乗れなくなってしまったことが
酷く悲しかった。
バスに乗っているときだけは
たくさんの人の注目を浴びていられた。
ちっぽけな私の存在価値を
確認できる場所が
そこにはあったから。
――ある日の夕方
晩ご飯の用意をしているときに
それは始まった。
ご飯の炊ける匂いが
どうしても吐き気を誘う。
水道の水を流しっぱなしにして
何度となく嘔吐を繰り返した。
料理をするなんて
とんでもない。
ありとあらゆる匂いに反応しては
嘔吐を繰り返す。
つわりが起こる詳しい原因は
まだ解明されてはいないけれど
人ひとりをお腹の中に宿すのだから
こうゆう拒絶反応があっても
仕方がないのだろう。
つわりは人それぞれに違うと聞くけれど
私は特に匂いに敏感で
つわりがおさまるまでの数ヶ月間
ジュースだけで過ごすことになった。
それでも新しい命は
順調に育っていたらしい。
季節が変わり
涼しい風が吹き始める頃
私は立派な妊婦さんになっていた。
頻繁にお腹を蹴りまわり
よく動く赤ちゃんは
お腹に手を当てただけで
ドコに足があるのかわかるほど。
今まさに
このお腹の中に
新しい命が育っている。
いつまでも
感傷に浸ってなんていられない。
3度の堕胎を経て
奇跡的に授かった赤ちゃんなんだから。

