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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第20章 待ち人
 氷を踏みつける音を何十、何百も倍にして、冷気すら帯びる雷の龍が地を喰らっていく。その世界をつんざく音は日嗣の本能をすくませ、えぐられた地や削られた岩肌は砂塵となって視界を曇らせ、暴風と振動はその動きを封じ込める。
 更に砂嵐の向こうで骨蜘蛛の脚が放電しながらカシャカシャと蠢くのを認めた日嗣は、その二波目を恐れながらも自らの神気を高め、何とか距離を取ろうと後退った。
 しかしそれを見た女神は更に深く湾曲した三日月を唇に描くと、放った神気を急速に収束させる。
 『……』
そして次にその唇が作った形は、
「……!?」
──つかまえた。
 幽かに耳に届いた女の声に、日嗣は息を呑む。
 その声と共に雷も嵐も、先程まで自分を呑もうとしていたものが、その勢いもそのままに骨蜘蛛目掛けて逆行していく。直後、ばしゃりと水に叩き落とされたような音が聞こえたと思った瞬間には、もう四肢と背を蜘蛛の糸に絡め取られていた。急速に変動した空気の流れ。その激流に煽られた巣が反動で大きくしなり、その一部がちょうど日嗣の体を掠め取ったのだった。
 「……ッ!!」
それでも収まらない揺れに、ぐわんと体が持ち上げられる。受け身も取れない宙に投げ出され、天地が何度も大きく逆転する。
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