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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第14章 墨染めの恋
【1】

 「……」
静かだった。
 伍名が訪ねたその宮は、主の気質を表すように無機質で空虚だった。静かなのは単に音がしないという訳ではなく、漂う気配が虚ろなのだ。待たされた小広間も、こうして謁見を求める者が通されるにはあまりに味気ない。ただ在るために最低限の物が揃えられているだけで、趣味嗜好、執着、過剰な権力を窺わせる見せ物は何も無い。
 それはある意味で究極的に洗練された神性かもしれないが……厳かであるのと寂しげであるのは違う。何にも興味が持てないのか、或いは自分を罰するように律しているのか、両方だろう。
 天孫。
 その豪奢な箱書きがなされた箱の中身は、冷たい空気が漂うばかりの虚ろなものだった。
 「……」
庭越しに外を見れば、空は太陽は昇らずとも白々とその色を変え始めていた。
 無為に過ぎていく時間は、ただ単に訪れる時間が非常識であったことと、権威を表すものだと伍名も承知しているが──
(……神依)
すまない、と心の中で想い、伍名は再びまだ誰もいない上座に目を戻す。
 ……月読命はその見た目とは裏腹に、気性の荒い神だった。代わりに暗い夜道を照らす光ともなる、優の気質を持ったほのかな希望の神でもある。
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