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いじっぱりなシークレットムーン
第12章 Fighting Moon

昨日の祝賀会で、どこか遠い目をしていた衣里は、どことなく儚げで、微かに自嘲気な笑いを浮かべていた。
あたしはなにか嫌な予感がして、衣里に事情を聞こうと電話をするが、電源が入っていない。LINEも既読にならない。
まさかぶっ倒れているのではないかと心配するが、結城と専務が薄情にも「ありえない」と笑ったため、その自信たっぷりな断言をおかしいとも思わず、衣里を笑いものにするふたりにぷりぷり怒ったあたしは、万が一に備えて、冷静で対処出来る朱羽を連れて衣里のマンションに行くことにした。
「杏奈も行っていい? 真下ちゃん急に休むと言い出したから、杏奈もなにか心配で……」
杏奈があたしと朱羽にそう言った途端、木島くんがさっとやってきた。
今まであっちにいたのに、瞬間移動かよ!?
「あ、だったら俺、今日自分の車乗ってきたから、それで行くっす!」
スーツ姿の木島くんが、隆々とした胸板を叩いた。
「あれ、珍しいね木島くんが自家用車なんて。初めてじゃない?」
「今日は結城さんが社用車で挨拶回りをするし、車あれば便利かなと思ったっす! どうぞ俺、運転手やるっす!」
都心から衣里が住まう江戸川区の船橋は、会社を挟んでもっと奥になる。
あたしと朱羽の家の近くなんだ。
車を出してくれるというありがたい申し出に甘えることにして、助手席に杏奈、後ろにあたしと朱羽が並んだのは、朱羽の提案だ。
「課長、最高っす! 部下思いの課長、大好きっす!」
なにやら朱羽に愛の告白をしながら、木島くんが運転するのは小さなバスのような白いバンだったが、窓は外から覗かれるのを防ぐためスモークフィルムが張られ、カーテンがある。さらには窓の内側に鉄格子のような格子状の金網。
「あ、俺の弟達が、外から誰かに見られたら、すぐ窓開けて外に落っこちるから、それ予防の格子っす!」
……弟くんよ、普通…窓開けたら落っこちないよ。
「カーテン閉めたら、光遮断するから、長いドライブの間でもぐっすり眠れるっす! キャンピングカーになるっす!」
色々と意味があって、このスタイルらしいが、これはどう見ても……。
「護送車、だよね……」
あたしの呟きに気づかないのは、ふんふんふふふんと鼻歌を歌い出した木島くんだけだった。

