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第34章 彼の過去

「…うん」
食い入るように見つめていたその唇が、紡いだ。
あまりも簡単に肯定され、陸は言葉を失う。
想像していた歓喜の瞬間とは全然違う。
全く以て、重要な話をしているようではなく。
彼女から貰えたのは軽く、あっさりと、たったの一言だけ。
「えっ…」
思わず、戸惑いの声を漏らしてしまう。
「…俺の事、好きなの？」
半信半疑で、ほぼ同じ質問を、繰り返してしまう。
「…うん」
またしても貰えたのは、全く同じ返答。
信じられない面持ちで、華夜子の髪を撫でていた手を背中へ移動させる。
次の瞬間は、胸に彼女を抱き締めていた。
周りが明らかに騒がしくなった気がしたが、そんな事に構っていられなかった。