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蕩けるようなキスをして
第62章 理由
ドライヤーの音が止んだ。
長い栗毛はまだまだ乾いてるとは言い難かったけど、陸は背面から彼女を抱き締めずにはいられなかった。
いきなり抱かれ、華夜子は驚いたが、嫌なはずもなく、そのまま黙って陸の腕に収まる。
「ただ、来て欲しいって言われたのが、ちょうどイヴで。前日の祝日にしたかったんだけど、仕事がお休みじゃないからって。そう言われたら、こっちとしても従うしかなくて。ここでまた何かを言って、折角来てもいいって許しをもらったのに、断られたくないって気持ちも大きかった。私にとっては、ほんとに最初で最後のチャンスだったから。だから、陸との約束があったけど私、行きますって返事をしたの。午前中早くに行けば、夕方の約束にはなんとか間に合うだろうって」
「…うん」
華夜子の身体を後ろから抱き締めながら、陸は頷く。
「お墓がある先生の実家って言うのが、山奥だってのは教えてもらっていたんだけど。電車やバスを乗り継いで、やっと到着できる場所だってのは初耳で。どんなに早く出発しても、着くのは午後だって事も。それからお墓参りして、また一時間に一本のバスや電車を待てば…帰って来れるのは夜だって知った。でも、行くと言った手前、もう取り消す事も出来なかった。だから、私-」
-陸との約束を破ってまで、行って来た。
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