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第60章 Ｔ

華夜子の額にキスしたまま、陸は彼女の身体を包み込むように抱く。
ただ黙って、彼女を温かな腕で抱き締める。
名前を告げたきり、何も言ってこない。
何も訊いてもこない。
そんな陸の腕の中で、華夜子はどうしたらいいのか思い悩む。
こんな展開は－まるで、予想していなかった。
何も言わない彼に代わり、自分の方こそ、彼に訊きたい事が次々に出てきてる。
どうして。
どうして－。
「…留以」
まさか－思ったけど。
でもそれ以外、考えられなかった。
ぽつり。
呟く華夜子を、陸は冗談口調で咎める。
「親友疑うなよ」
陸の言葉に、華夜子の頬が羞恥に染まる。