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蕩けるようなキスをして
第55章 待ち人来ず
見慣れた背中に、よく似ている気がした。
多少の距離があり。
電球や自動車のライトなど、人工的な灯りのみが頼りの夜の闇の中。
はっきりは断言出来ないけれど。
背を流れる長い髪も。
恐らく白色であろうコートも。
背格好も。
何もかもが、よく似ていた。
人違いかもしれない。
近付いてよく見れば、似ても似つかないかもしれない。
あまりにも欲するものだから、夜の帳が見せた幻覚かもしれなかった。
喜ぶのは、まだ早い。
まだだ。
自分で自分を制するが、逸る気持ちは隠しようがなかった。
陸は弾かれたように、歩みを速めようとし-しかし、その足は止まった。
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