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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第28章 第十一話 【螢ヶ原】  其の四 
 伊勢次と過ごした刻(とき)は、京屋市兵衛の巧みな愛撫とは異なり、たどたどしさがあったが、常に愛情と優しさに満ちていた。女体を知り尽くした市兵衛には見られぬ相手への純粋な思いやりがあった。
 伊勢次がそれほどまでの労りを閨の中で見せたにも拘わらず、お彩の眼からは涙が溢れ続けた。けして、この涙を伊勢次に知られてはならない。ただそればかりを考えている中に、いつしか家を出て辻堂まで来ていた。
 泣くまいとしても、涙は次々に溢れ出てきた。ただひたすら、伊勢次に申し訳ないと思った。伊勢次に触れられている最中も、あの男は何度もお彩の意識の中に現れた。その度に、お彩はその場から逃げ出したい衝動に駆られた。
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