この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第28章 第十一話 【螢ヶ原】 其の四

折しも今は十六年前と同様、薄紅色の花を開かせた睡蓮が池の面を飾っている。長い星霜に苔むし風化した小さな墓石は、ますます道端の石ころにしか見えなくなってしまっている。その前でしばし手を合わせてから、また、来たのと同じ道をゆっくりと辿って家に戻るのだ。
お彩と伊勢次は辻堂の近くに小さな仕舞屋を借りている。猫の額ほどではあるけれど、庭もついていて、家の前には枇杷の樹が一本植わっていた。これは、二人がここに来たときから既にひっそりと佇んでいて、もう樹齢も判らないほどなのだという。
少し歩いただけで汗まみれになり、息が上がるので、ゆっくりと進んでは休み、また、進んでは休みを繰り返すことになり、刻を要してしまうのはいつものことだった。
お彩と伊勢次は辻堂の近くに小さな仕舞屋を借りている。猫の額ほどではあるけれど、庭もついていて、家の前には枇杷の樹が一本植わっていた。これは、二人がここに来たときから既にひっそりと佇んでいて、もう樹齢も判らないほどなのだという。
少し歩いただけで汗まみれになり、息が上がるので、ゆっくりと進んでは休み、また、進んでは休みを繰り返すことになり、刻を要してしまうのはいつものことだった。

