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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第28章 第十一話 【螢ヶ原】 其の四

果たして、これから旅立つ先にいかほど滞在することになるのかは判らなかったけれど、伊勢次は今は、お彩の心を落ち着かせるためにも、京屋市兵衛からお彩を守るためにも江戸を離れるのが良いと考えたのである。
伊勢次との日々は、想像していたように平穏で、温もりのあるものとなった。伊勢次は、にわか百姓となり、近隣の農家に畑仕事の手伝いにいっては、わずかの銭を得ている。江戸を離れるに当たり、いくばくかの蓄えは持ってきたものの、どれほど切りつめても、ささやかな蓄えが底をつく日が来るのは眼に見えていた。
お彩は得意の仕立物を生かして収入を得ようとしても、こんな貧しい農村に仕立ての内職を必要とする人がいるはずもなく、早朝から陽の落ちるまで慣れぬ畑仕事で働きどおしの伊勢次には済まないと頭の下がる想いである。
伊勢次との日々は、想像していたように平穏で、温もりのあるものとなった。伊勢次は、にわか百姓となり、近隣の農家に畑仕事の手伝いにいっては、わずかの銭を得ている。江戸を離れるに当たり、いくばくかの蓄えは持ってきたものの、どれほど切りつめても、ささやかな蓄えが底をつく日が来るのは眼に見えていた。
お彩は得意の仕立物を生かして収入を得ようとしても、こんな貧しい農村に仕立ての内職を必要とする人がいるはずもなく、早朝から陽の落ちるまで慣れぬ畑仕事で働きどおしの伊勢次には済まないと頭の下がる想いである。

