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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第27章 第十一話 【螢ヶ原】 其の参

伊勢次の方が愕いたようで、抱きついてきたお彩を抱きしめて良いものかどうか、態度を決めかねているようだ。背中に腕を回すのもいささかはばかられ、伊勢次は両手を華奢な背中からやや離れた場所で制止させたままである。
中途半端な体勢で固まった伊勢次の胸に顔を埋(うず)めて、お彩が呟く。
「どこか遠いところ―」
伊勢次が頷いた。
「そこで新しい暮らしを始めよう。俺とお前と生まれてくる子の親子三人で」
「―行きたい」
あまりにか細い声だったので、伊勢次はその囁きを聞き取ることができず、問い直そうとした。だが、伊勢次が言葉を発する前に、お彩から呟きが洩れた。
中途半端な体勢で固まった伊勢次の胸に顔を埋(うず)めて、お彩が呟く。
「どこか遠いところ―」
伊勢次が頷いた。
「そこで新しい暮らしを始めよう。俺とお前と生まれてくる子の親子三人で」
「―行きたい」
あまりにか細い声だったので、伊勢次はその囁きを聞き取ることができず、問い直そうとした。だが、伊勢次が言葉を発する前に、お彩から呟きが洩れた。

