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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第27章 第十一話 【螢ヶ原】 其の参

―俺ァ、二十五年も生きてきて、腹の中にいる赤子が動くのなんて、ちっとも知らなかったぜ。
―男のひとだもの、知らないのが当たり前よ。それに実を言うとね、私もたった今、初めて知ったばかりなの。
そう言うと、お彩と伊勢次は顔を見合わせて笑った。
―もしかしたら、初めて父親になるときの気持ちって、こんなものなのかもしれねえな。
その言葉にハッとしたお彩が伊勢次を見やると、伊勢次はまだ感に堪えぬといった様子でうっすらと涙を浮かべてさえいた。
その伊勢次の表情を見たきり、お彩はそれ以上何も言えなくなってしまった。確かに、昨夜のあのやりとりは、本来ならば、腹の子の父親である市兵衛と交わすべきものだろう。
―男のひとだもの、知らないのが当たり前よ。それに実を言うとね、私もたった今、初めて知ったばかりなの。
そう言うと、お彩と伊勢次は顔を見合わせて笑った。
―もしかしたら、初めて父親になるときの気持ちって、こんなものなのかもしれねえな。
その言葉にハッとしたお彩が伊勢次を見やると、伊勢次はまだ感に堪えぬといった様子でうっすらと涙を浮かべてさえいた。
その伊勢次の表情を見たきり、お彩はそれ以上何も言えなくなってしまった。確かに、昨夜のあのやりとりは、本来ならば、腹の子の父親である市兵衛と交わすべきものだろう。

