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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第26章 第十一話 【螢ヶ原】 其の弐

伊勢次の優しさに甘えながら、その一方で市兵衛のことをあれこれ思うのは、あまりに非常識ではないのか。
市兵衛とのことは、もう終わったのだ。お彩はいずれ京屋に手紙をしたためて、市兵衛に去り状(離縁状)を書いて貰うつもりだった。
逢えば逢うだけ、別れが辛くなる。市兵衛を今でも愛してはいたけれど、もう夫婦としてやってゆくことはできないと思っていた。
「ちゃんと食べるんだぞ?」
表まで見送りに出たお彩に向かって、伊勢次はくどいほど同じことを言い置いて仕事に出かけていった。
そろそろ桜の時季も終わろうとしている、卯月の十日過ぎの朝のことであった。江戸は、ほどなく新緑の季節を迎えようとしていた。
市兵衛とのことは、もう終わったのだ。お彩はいずれ京屋に手紙をしたためて、市兵衛に去り状(離縁状)を書いて貰うつもりだった。
逢えば逢うだけ、別れが辛くなる。市兵衛を今でも愛してはいたけれど、もう夫婦としてやってゆくことはできないと思っていた。
「ちゃんと食べるんだぞ?」
表まで見送りに出たお彩に向かって、伊勢次はくどいほど同じことを言い置いて仕事に出かけていった。
そろそろ桜の時季も終わろうとしている、卯月の十日過ぎの朝のことであった。江戸は、ほどなく新緑の季節を迎えようとしていた。

