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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第24章 第十話 【宵の花】 其の弐

これは大番頭の佐平の声である。佐平は先代の市兵衛よりも二つ年上で、この店では最も長く奉公している使用人であった。
「所詮は長屋育ちの生まれも賤しい女ですから、お亡くなりあそばされた前のお内儀(かみ)さんの足下にも及びませんですよ。確かに器量良しではございますが、あのようなどこの馬の骨とも知れぬ下賤な女、どうせ京屋の身代が目当てでございましょう。あの色香で旦那様をたらし込んだに違いありません」
これは手代頭の泰助の声に相違ない。泰助は二十八になる。佐平が丁稚の頃から眼をかけて仕込んだ男で、損得勘定は早いが、冷酷な一面を持っていた。
「所詮は長屋育ちの生まれも賤しい女ですから、お亡くなりあそばされた前のお内儀(かみ)さんの足下にも及びませんですよ。確かに器量良しではございますが、あのようなどこの馬の骨とも知れぬ下賤な女、どうせ京屋の身代が目当てでございましょう。あの色香で旦那様をたらし込んだに違いありません」
これは手代頭の泰助の声に相違ない。泰助は二十八になる。佐平が丁稚の頃から眼をかけて仕込んだ男で、損得勘定は早いが、冷酷な一面を持っていた。

