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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第22章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】 其の壱

お彩は長くて急な石段を辿り、山門をくぐり抜けた。いつものように本堂の前で手を合わせ、三重ノ塔を横目に見て通り過ぎる。更に百度石と小さな朱塗りの鳥居が目印の絵馬堂の傍を通り、最奥の開祖浄徳大和尚を祀る奥ノ院に詣でた後、墓地へと向かう。
まだ白木の墓標も真新しい父の墓の前に佇むと、どうしても涙が込み上げてくるのは致し方なかった。その傍らには五年前に亡くなった母お絹が眠っている。一生かかっても良いから心に花を咲かせなさい―、母の口癖が今更ながらに蘇る。
―おっかさん、私もおっかさんの言っていたように自分だけの花を咲かせたいと思うの。
好きな男(ひと)にどこまでもついていきます。
そっと母に呼びかける。瞼をよぎった母の顔は、桔梗の花のようにほろこんでいた。
まだ白木の墓標も真新しい父の墓の前に佇むと、どうしても涙が込み上げてくるのは致し方なかった。その傍らには五年前に亡くなった母お絹が眠っている。一生かかっても良いから心に花を咲かせなさい―、母の口癖が今更ながらに蘇る。
―おっかさん、私もおっかさんの言っていたように自分だけの花を咲かせたいと思うの。
好きな男(ひと)にどこまでもついていきます。
そっと母に呼びかける。瞼をよぎった母の顔は、桔梗の花のようにほろこんでいた。

