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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第21章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】 其の壱

お彩は四年前に家を出て、今は伊八の住む甚平店からも近い裏店に一人住まいをしている。「花がすみ」という一膳飯屋に通いで奉公して、曲がりなりにもちゃんと一人で立派にやっている。
最初、お彩が家を出ると言いだしたときは、伊八は随分と愕いたし、むろん止めた。十四の年まで手塩にかけた娘を突然手放すことはできなかったし、裏店住まいで育ったとはいえ、さして苦労もせず世間も知らぬ娘がたった一人で生きてゆくことなどできるはずがないと思ったのである。
お彩が伊八に対して反抗的な態度を取り始めたのは、女房のお絹が亡くなってほどなくしてからのことだった。伊八はその原因に皆目見当がつかず、何度も娘と腹を割って話し合おうとしてみたけれど、当のお彩はいつも頑なに黙り込んで話にもならなかった。結局、伊八は無理にその理由を突き止めることはせず、娘の様子を静かに見守ることにした。
最初、お彩が家を出ると言いだしたときは、伊八は随分と愕いたし、むろん止めた。十四の年まで手塩にかけた娘を突然手放すことはできなかったし、裏店住まいで育ったとはいえ、さして苦労もせず世間も知らぬ娘がたった一人で生きてゆくことなどできるはずがないと思ったのである。
お彩が伊八に対して反抗的な態度を取り始めたのは、女房のお絹が亡くなってほどなくしてからのことだった。伊八はその原因に皆目見当がつかず、何度も娘と腹を割って話し合おうとしてみたけれど、当のお彩はいつも頑なに黙り込んで話にもならなかった。結局、伊八は無理にその理由を突き止めることはせず、娘の様子を静かに見守ることにした。

