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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第21章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】 其の壱

【其の壱】
伊八は往来を急ぎ足で歩いていた。穏やかな秋の陽差しが真っすぐに地面に落ちている。江戸はこのところ日毎に秋の気配が濃くなっていた。朝夕の大気はひんやりとした冷気を孕み、樹々の葉はその色鮮やかさを増してゆく。殊に随明寺の紅葉は紅(くれない)に染め上げられ、訪れる者の眼を十分に愉しませてくれた。
伊八は、町人町でも最も賑やかな大通に差しかかろうとしていた。大店ばかりが建ち並ぶ中に、ひっそりと佇む小店がある。伊八はその店の前に立った。その陽に灼けた精悍な顔を躊躇いがよぎる。伊八の眼前で紺地に「ゆめや」と白地で染め抜かれた暖簾が微かに揺れた。やがて思い切ったように伊八は暖簾をかき分けて、中に入っていった。
伊八は往来を急ぎ足で歩いていた。穏やかな秋の陽差しが真っすぐに地面に落ちている。江戸はこのところ日毎に秋の気配が濃くなっていた。朝夕の大気はひんやりとした冷気を孕み、樹々の葉はその色鮮やかさを増してゆく。殊に随明寺の紅葉は紅(くれない)に染め上げられ、訪れる者の眼を十分に愉しませてくれた。
伊八は、町人町でも最も賑やかな大通に差しかかろうとしていた。大店ばかりが建ち並ぶ中に、ひっそりと佇む小店がある。伊八はその店の前に立った。その陽に灼けた精悍な顔を躊躇いがよぎる。伊八の眼前で紺地に「ゆめや」と白地で染め抜かれた暖簾が微かに揺れた。やがて思い切ったように伊八は暖簾をかき分けて、中に入っていった。

